よく誤解されていますが、心身症という病名はありません。同じ病気を持った人たちを比べた際のある傾向を表す言葉であって、病名の後ろに「(心身症)」とつけ加える形で使用する用語なのです。どういう傾向かというと、体の病気に心の状態や生活環境、対人関係などがどのくらい影響しているかという傾向です。「ストレスで胃潰瘍になった」「仕事が忙しすぎて血圧が下がらない」などという話を聞いたことがあるかも知れません。そういった影響が強い場合に、「胃潰瘍(心身症)」「高血圧(心身症)」という病名になるわけです。
ほとんどの体の病気は、多かれ少なかれ心理社会的な影響を受けるものですが、そういうことを考えなくても治療できるものは、あまり心身症と呼ばれることはありません。つまりある病気が心身症かそうでないかはっきりと境界線を引けるわけではなくて、同じ病気でも人によって心身症傾向の強いものから弱いものまで連続的にあるということです。そして心身症の傾向が強い場合には心理社会面も考慮した治療が必要となるのです。ということは治療薬が発達すれば、これまで心身症として治療しなければ難しかったような人たちが、身体面への治療だけでも良くなるということも起こるわけです。実際、胃潰瘍や気管支喘息、関節リウマチなどは治療薬がめざましく進歩したため、以前に比べると心身症として治療しなければならない症例はぐんと減っています。