自覚症状がないのに健康診断で胸部X線異常を指摘され、病院を受診し精査の結果、進行期肺がんの診断に至るケースは実は少なくありません。進行期肺がんは手術での根治ができないため、全身化学療法などで病状のコントロールをすることが非常に重要です。
化学療法には従来から使用されていた「細胞障害性抗がん薬」という、がん細胞の増殖を、遺伝子を複製する上で重要な物質の働きを抑えることでコントロールする薬剤があります。この薬剤の特徴は正常細胞にも影響がでてしまう点で、副作用の管理が必要です。このような中、正常細胞にできるだけ影響を与えないように開発されたのが、「分子標的薬」という新しい抗がん剤です。
この薬剤はがん細胞が増殖・進展する上で、がん細胞に最も影響力のある分子を標的にして、より選択的に治療を行えるように設計されています。副作用が少なく治療効果が良好であることが特徴であり、個別化医療のパイオニアとなりました。しかしながら、これらの薬剤のみでは十分な治療効果を発揮できないのが現実で、次に考案されたのが免疫療法です。
がん細胞の表面にはPD-L1 や PD-L2 という分子が発現していますが、この分子と、免疫を担当するリンパ球の一種である「活性型 Tリンパ球」の表面の PD-1 が結合すると、活性型 Tリンパ球ががん細胞を攻撃することをブロックしてしまい、免疫寛容状態となりがん細胞が防衛される環境が構築されることが知られています。このシステムを逆手にとり、PD-1とPD-L1との結合を阻害するよう開発されたのが、免疫チェックポイント阻害剤です。この薬剤によって、活性型Tリンパ球ががん細胞を攻撃するような環境を整えると、がんの治療に有用であることが近年分かってきました。
このような免疫療法と、従来の細胞障害性抗がん薬との治療効果の比較を行う治験などを当院では行っております。一人でも多くの患者さまに、その恩恵を受けていただけるように、新しい治療選択肢としてご提案させていただいております。