病気の辞典 vol.033(2020/02/06)大動脈瘤

血管外科
診療講師 坂下 英樹

大動脈瘤



概要

 心臓から押し出される血液が流れる血管を動脈といい、心臓から直接出る動脈を大動脈といいます。人体の中で最も太い血管で、樹木のように枝分かれしながら血液を運んでいきますが、横隔膜を境に胸部大動脈・腹部大動脈に分類されます。大動脈瘤は、おもに動脈硬化が原因で大動脈の壁が弱くなり風船のように膨らみ拡大する病気で、動脈瘤ができる場所によって胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤といい、胸部大動脈瘤はさらに詳しく上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤に分類されます。



症状

 胸部大動脈瘤の場合、こぶが大きくなると周囲の組織が圧迫されて症状が出ることがあり、声帯の動きを調節する神経(反回神経)が圧迫されて起こるしわがれ声(嗄声)や、食べたものが気管に入ってしまう誤嚥といったものです。腹部大動脈瘤では、やせている方ではこぶが目立つようになったり、お腹を触った際にこぶの拍動を感じることがあります。しかし一般的に大動脈瘤の症状はありませんので、人間ドックや他の病気で行ったエコーやCT検査で、偶然発見される場合がほとんどです。一方、動脈瘤が破れた(破裂)場合は、胸やお腹、背中に激烈な痛みを自覚し、ショック状態となりますので、急速に危険な状態に陥ります。



検査

・エコー
胸は肋骨でおおわれていますので、胸部大動脈瘤をエコーで見つけることは困難ですが、腹部大動脈瘤は簡単に見つけることができます。

腹部大動脈瘤


・CT
胸部・腹部とも確実に診断することができ、こぶの大きさから範囲まで判定することが可能です。
 

弓部大動脈瘤    腹部大動脈瘤



治療

 大動脈瘤の治療は手術しかなく、まだ今の医学ではお薬で治る病気ではありません。また大きくなって破裂してから手術したのでは手遅れですので、破裂する前に、破裂を予防するために手術を行います。手術法としては、


・人工血管置換術
胸やお腹を開けて大動脈瘤の前後で血流を遮断し、動脈瘤を切り取り、その部分を人工血管で置き換えます。胸部大動脈瘤の場合は補助循環を使用します。この術式では動脈瘤を取り去りますので、根治的な手術になります。
 

弓部大動脈人工血管置換術 腹部大動脈人工血管置換術


・ステントグラフト内挿術
足の動脈よりカテーテルによって動脈瘤の中にバネ付きの人工血管(ステントグラフト)を入れ、瘤内へ血液が流れなくします。傷は足の付け根を4cm程度切るだけですので、体への負担の小さな手術になります。しかし瘤は残る術式ですので、あとあと追加手術が必要となることもあります。


胸部大動脈ステントグラフト内挿術   腹部大動脈ステントグラフト内挿術



総合医療センターで行う治療

 当院では胸部・腹部ともステントグラフト実施委員会の実施施設認定を取得しており、指導医も常勤していますので、人工血管置換術・ステントグラフト内挿術、どちらの治療も行うことができます。患者さんの年齢や合併症などの背景を総合的に考慮し、より最適な治療法を提供いたします。

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注:記載内容や医師情報は掲載時点のものです。 詳しくは担当診療科にご確認ください。


血管外科 診療講師坂下 英樹(さかした ひでき)

専門分野:血管外科全般、ステントグラフト内挿術、血管内治療

認定資格:外科専門医・指導医、心臓血管外科専門医・修練指導医、脈管専門医、胸部・腹部ステントグラフト指導医、日本血管外科学会認定血管内治療医、下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医

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