医学部医化学講座 清水(小林)拓也 教授

ヒトの体内にある無数のタンパク質。中でも、薬の効き目を左右する“膜タンパク質”の立体構造は、なかなか目で見ることができません。そんな“ 見えない”相手と日々格闘しながら、私たちはクライオ電子顕微鏡という顕微の名刀を手に、原子のレベルでその姿を捉えています。医化学講座では、関西医大発、次世代の創薬を切り拓くチャレンジが始まっています。
【創薬に資するヒト膜タンパク質のクライオ電子顕微鏡単粒子解析】
近年の技術革新により、クライオ電子顕微鏡単粒子解析(Cryo-EM SPA)は、従来のX 線結晶構造解析では困難なヒト膜タンパク質の構造解析を容易にしました。これにより、創薬ターゲットである膜タンパク質の構造が結晶化を必要とせず、より短期間で明らかにできるようになり、構造に基づく薬剤設計(Structure-based Drug Design, SBDD)への応用が急速に進んでいます。
当講座では、X線結晶構造解析で培ったタンパク質生産技術をCryo-EM SPAに応用し、特にGタンパク質共役受容体(GPCR)の構造決定を高速に進めています。cryoSPARCなどの解析ソフトの発展もあり、これまでに25種類以上のヒト膜タンパク質の構造決定を行いました。現在、5テーマでNature姉妹誌への投稿またはリバイス作業を進行中で、創薬上極めて重要なターゲットの構造が次々と明らかになりつつあります。
ただし、構造解析にはGPUを用いた計算が不可欠であり、本学の設備上の制約から講座内の居室に騒音・熱を伴うGPUマシンを設置している状況です。今後の更なる解析には、専用のサーバールーム等、環境整備が急務です。
なお、本研究は製薬企業との産学連携による共同研究としても進行中であり、外部機関からの信頼も高く、多くの学内外の研究室との連携の基盤にもなっています。現在、3名の社会人博士課程学生、2名の外研学生が本プロジェクトに参加しており、今後も教育と研究の両立を目指していきます。
【カンイ抗体ファクトリー構想】
当講座では、良質な抗原を用いた立体構造認識抗体の開発技術を活かし、「カンイ抗体ファクトリー構想」を展開しています。この技術は、京都大学在籍時に確立し、現在の研究環境ではKMUコンソーシアムに採択された2つのプロジェクトにより一層強化されました。
構造を認識する抗体は高い選択性と親和性を有し、特に附属光免疫医学研究所との連携による光免疫療法を含めた抗体医薬としての応用を目指しています。現在、バイオバンクセンターをはじめ、腎泌尿器外科、外科、臨床検査医学センター等、学内の複数の臨床講座との共同研究が進行中であり、開発した抗体によるがん細胞への選択的な死滅効果も確認されています。
また、企業との共同研究も活発であり、ヒト膜タンパク質認識抗体の技術基盤を生かし、迅速な抗体医薬開発の支援体制が構築されています。本構想では、良質な抗体を迅速かつ安定的に供給し、共同研究を通じて学内研究を加速させることを目的としています。実際に、限られた期間内に学位取得を目指す臨床講座所属の大学院生への研究支援も積極的に行っており、研究成果を学位取得・実用化へとつなげていく体制が整いつつあります。
【基礎医学系講座の研究レベル底上げを支援】
当講座では、精製レベルで優れたタンパク質標品の作製技術を基盤として、構造生物学と抗体医薬開発を推進しています。これらの技術は、本学の基礎医学系講座間の連携を加速させ、分子レベルの新たな視点を提供する重要な土台です。
特に、Cryo-EM SPAは本学で唯一医化学講座のみが実施しており、その導入によって構造決定は加速・平易化され、論文投稿や研究成果の発信が大幅に促進されました。すでに附属生命医学研究所神経機能部門との共同研究では、ターゲット分子に結合するリガンドの構造を可視化し、分子機能の解明に貢献しています。これを含む一連の成果は、大型グラントの申請にもつながる重要なステップとなっています。
今後は、構造生物学・抗体開発の両輪を軸に、基礎医学系講座と臨床系講座をつなぐ“ジョイント”としての役割を担い、関西医大全体の研究基盤強化を目指していきます。
- 2025年5月取材・撮影
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